632 1/2 sage 04/12/08 22:00:47 ID:ErtdyVKy
他人の話なんだが、よければ聞いてくれ。
公立受験に落ちて、地元ではかなりワルの蔓延る底辺高校に 入学したんだが、俺の入ったクラスは噂とはかけ離れたヲタクラスだった。
6割キモヲタ、1割隠れヲタ、2割一般高校生、1割イケメン(どういうわけか) という比率だったんだが、ヲタが多い理由は恐らく特進クラスだったからだろう。
当初、ワルの噂で萎縮していたヲタたちも、隔離された温床で暮らすうちに 次第に活発な活動を起こすようになった。
そして、入学から数ヶ月が過ぎた。時期は夏休み前。 文化祭の話が持ち上がり、クラスでの出し物を決めるという話が出た。 そこで何を血迷ったかキモヲタでも中核を成すデヴが、バンドをやりたいと言い出した。 仲間のキモヲタ勢は賛成の色を示し、決定事項となってしまうのに時間はかからなかった。
3割の一般人たちは、我知らずといった具合で傍観していた。 特に練習が行われている様子もなく時間は過ぎ、当日が来た。
1%の純粋な好奇心と99%の嘲りで俺は友達を諭して、 校内祭(リハーサルと同意義)でのコンサートに行くことにした。
634 1/2 sage 04/12/08 22:16:52 ID:ErtdyVKy
400人ほど収容できる講堂では、 ぱらぱらと数人、そしてまるでお情けのように教員が数人座っていた。
ライブ開始まで残り数分というにも関わらず、 ギャラリーに変化は見られず、非常にお粗末な状態がしばらく続いた。
そして、時刻が来た。
ゆっくりと上がる垂れ幕。垂れ幕の下から覗く4~5人の足。 ここで既に俺は違和感を感じた。
「全員、綺麗に、かつ等間隔に並列している。」
おかしい。そもそも「バンド」と謳うからにはボーカル・ギター・ベース・ドラムが 最低限でも必要なはずだ。 俺の大きな疑問を尻目に、更に昇る垂れ幕の中で俺は解を得ることとなる。
「楽器はなにもない。」
そう。彼らは何も使わなかったのだ。だから、舞台配置を考える必要がなかったのだ、と。 激しく発光するスポットライトに佇むデブ5人。ほんのりと浮かぶ汗。
唖然とするギャラリーを前にリーダー核のデヴヲタがマイクを取った。 「え~っ・・とその、あんまり練習はしてないんで、自信・・なぃんすけど・・っと、その 一曲だけで・・っ・・・その・・皆さんと・・お別れになりま・・す」
彼の一言は、いろんな意味でギャラリーの心を一つにすることができた。
640 最終章 sage 04/12/08 22:44:49 ID:ErtdyVKy
ギャラリーたちの様々な期待が交じり合い、 形容し難い空気が会場全体を包み込んだ。
リーダー格のデヴヲタが、足でリズムを刻みマイクを構えた。 「・・・・ドゥッ!ドゥッ!ドゥッッ!」 「あれからぁ~ ぼくたちはぁ~ 何かを信じて来れたかな~」
俺は突きつけられた予想外の事実を一つ一つ受け入れなければならなかった。 5人もいるのに、合唱(全員同じパート) 今更感を通り越した選曲「夜空ノムコウ」 可哀想なくらい吐息の聞こえる「ボイスパーカッション(の真似事)」
まるで、断頭台にかけられたキリシタンのような顔をした4人と、 餌を貪る畜生のようなボイスパーカッションを見せるリーダー格。
悲惨な光景に席を立つ教員、申し訳なさそうな顔をして佇む担任。 そして、この現状に追い討ちを駆けるように響く他クラス生徒の冷やかし。
あっという間に、彼らにしてみれば一生分の苦痛の時間が過ぎた。 まるで、汚いものにフタをするかのように垂れ幕が下がり始め、 あっという間にステージは終わりを告げようとしていた。
体中から色んな汁を垂れ流しているリーダー格が、 フェードアウトする刹那に「ありがとう!」っと叫んだ。 錯綜する心境だったにせよ俺と友達の間に、そう言葉はいらなかった。
ライトの落ちた会場には、アンコールの声がむなしくこだましていた。
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